これから土地の購入や注文住宅を検討している人にぜひ知っておいて欲しい知識に「斜線制限」というものがあります。
斜線制限を知らずに土地を購入してしまうと「3階建てを建てようと思っていたのに2階建てしか建てられなかった」という事態にもなりかねませんので、土地の購入前に斜線制限に対する基本的な知識を身に付けておきましょう。
本記事では、「道路斜線制限」「隣地斜線制限」「北側斜線制限」という3つの斜線制限に関する基本的な知識と、斜線制限の計算方法や緩和措置について解説いたします。
目次
そもそも斜線制限とはなにか?
それぞれの斜線制限をご説明する前に、「そもそも斜線制限って何?」という人に向けて、斜線制限とは何かを簡単にご説明させていただきます。
斜線制限は都市計画区域内で建物を建てるときに適用されるもので、建物周辺の日当たりや風通しを確保することを目的としています。
地面から斜線を引き、その斜線に触れる範囲内には建築を認めないといったもので、いわゆる「建物の高さを制限」しています。
例えば、どの敷地に対しても敷地一杯に建物の建築ができたり、無条件に高い建物の建築ができてしまうと、道路には全く陽が当たらず暗い街並みになりますし、周辺の住宅にも一日中太陽の光が当たらず暗い住宅になってしまいます。
そのような事態にならないように、建物を建てる際に遵守しなければいけない制限を色々と設けていますが、その制限の一つが「斜線制限」というわけです。
「隣接する全方向への土地」「北側にある土地」「面している道路」に対して斜線制限を設けることで、建物周辺の日当たりや風通しを確保し、良好な住環境を保っています。
斜線制限の種類と特徴
斜線制限には「隣地斜線制限」「北側斜線制限」「道路斜線制限」の3種類があり、それぞれ制限の内容が異なります。各制限がどのような制限を受けるか知っておきましょう。
ちなみに、どの地域でも全ての斜線制限が適用されるわけではありません。どの地域でどの斜線制限が適用されるかは後ほどご説明しますので、まずは各制限の内容について解説していきます。
又、これから説明する制限内容は都市計画法による制限ですが、行政区別で制限が設けてられている場合もありますので、正確な制限内容を知りたい場合には市役所などで確認しましょう。
隣地斜線制限
隣地斜線制限とは、隣地側に面した建物部分の高さが20mまたは31mを超える部分についてかかる制限のことで、隣の敷地に建つ建物の風通しや日当たりを確保することを目的としています。
引用元:フォーサイトHP
高さが20mまたは31mを超える部分についての制限のため、2階建てや3階建てなどの戸建て住宅は制限対象にはならず、マンションやビルなどの比較的高い建物を対象にした斜線制限です。
又、第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域には10mもしくは12mの絶対高さ制限が適用されるため、そもそも隣地斜線制限は適用されません。
北側斜線制限
北側斜線制限とは、北側の隣地に面した建物部分の高さが5mまたは10mを超える部分についてかかる制限のことで、北側の敷地に建つ建物の風通しや日当たりを確保することを目的としています。
先ほどの隣地斜線制限と比べて、北側斜線制限の方が制限内容が厳しくなっているため、敷地の北側についてはこの北側斜線制限が適用されることになり、一般的な戸建て住宅も制限対象となります。
住宅街の中に立ち並んでいる住宅の中に、北から南にかけて屋根が三角形になっている住宅を見ることがあると思いますが、それは北側斜線制限によるものです。
太陽の光は南側から入るため、南側に高い建物を建てられると北側の建物には一切光が差し込まなくなってしまいます。そのため、北側斜線制限には緩和策が設けられていません。
道路斜線制限
道路斜線制限とは、20m~35mの範囲内において道路の幅員に応じて建物の高さを制限するもので、道路に対する風通しや日当たりを確保することを目的としています。
道路の向かい側から一定の角度で斜線を引き、その斜線に触れないように建物を建てないといけないといったものです。斜線の角度は、用途地域が住居系の場合は1mにつき1.25m、工業系・商業系の場合は1mにつき1.5mずつ上がる斜線というように分けられています。
道路斜線制限を緩和する方法としては、「天空率を利用する方法」と「建物を後退させる方法」がありますが、詳しくは後ほど解説いたします。
北側斜線制限と異なり、道路斜線制限は基本的にどの地域でも適用されます。道路幅員によって制限が大きく変わるため、土地の購入を検討される場合には意識するようにしましょう。
用途地域ごとの斜線制限一覧
用途地域によって建物の高さや規模が決められており、斜線制限も用途地域ごとに制限内容が異なります。どの用途地域にどの斜線制限がかかっているかを一覧で記載しておくのでご参照ください。
又、高さ制限には「絶対高さ制限」というものもありますので、そちらが適用されるかも同時に記載しておきます。
絶対高さ制限 | 隣地斜線制限 | 北側斜線制限 | 道路斜線制限 | |
---|---|---|---|---|
第1種低層住居専用地域 | 10mまたは12m | - | ○ | ○ |
第2種低層住居専用地域 | 10mまたは12m | - | ○ | ○ |
第1種中高層住居専用地域 | - | ○ | ○ | ○ |
第2種中高層住居専用地域 | - | ○ | ○ | ○ |
第1種住居地域 | - | ○ | - | ○ |
第2種住居地域 | - | ○ | - | ○ |
準住居地域 | - | ○ | - | ○ |
田園住居地域 | 10mまたは12m | - | ○ | ○ |
近隣商業地域 | - | ○ | - | ○ |
商業地域 | - | ○ | - | ○ |
準工業地域 | - | ○ | - | ○ |
工業地域 | - | ○ | - | ○ |
用途地域の指定なし | - | ○ | - | ○ |
※○:適用あり -:適用なし
中高層住居専用地域内の北側斜線制限については、条例によって日影規制が定められている場合は適用されません。
又、制限内容は行政区によって異なりますので、詳しくは市のHPなどで確認するようにしましょう。
斜線制限の計算方法
ここまで「隣地斜線制限」「北側斜線制限」「道路斜線制限」について解説してきましたが、ここからはそれぞれの斜線制限の計算方法をご紹介いたします。
それぞれの斜線制限ごとに数値は違いますが、基本的な考え方は同じです。
隣地斜線制限の計算方法
隣地斜線制限は、用途地域ごとに2パターンに分けられており、住居系地域か商業・工業系地域かによって計算式が異なります。
隣地斜線制限の計算式
- 住居系地域:20m+隣地境界線までの距離×1.25≧建築物の高さ
- 商業、工業系地域:31m+隣地境界線までの距離×2.5≧建築物の高さ
イメージしやすいように、図を用いて解説するとこのようになります。
引用元:ホームズ
住居系地域なら20m、商業・工業系地域なら31m以上の建物を建てる場合が対象となるため、それ以下の高さの建物なら隣地斜線制限は対象外となります。
北側斜線制限の計算方法
北側斜線制限は、低層住居専用地域と中高層住居専用地域に定められている斜線制限です。当然のことながら、低層住居専用地域の方が厳しく制限されます。
北側斜線制限の計算式
- 低層住居専用地域:5m+1.25×水平距離≧建築物の高さ
- 中高層住居専用地域:10m+1.25×水平距離≧建築物の高さ
イメージしやすいように、図を用いて解説するとこのようになります。
引用元:住建ハウジング
行政区によっては、中高層住居専用地域でも高さ5mから北側斜線制限が適用される地域があったりするので、事前に必ず確認するようにしましょう。
道路斜線制限の計算方法
道路斜線制限は、隣地斜線制限と同様に2パターンに分けられており、主に住居系地域とそれ以外の地域によって計算式が異なります。
道路斜線制限の計算式
- 主に住居系地域:道路幅員×斜線勾配(1.25)≧建築物の高さ
- 主にそれ以外の地域:道路幅員+斜線勾配(1.5)≧建築物の高さ
イメージしやすいように、図を用いて解説するとこのようになります。
引用元:メガソフト
道路の向かい側から1mごとに1.25mもしくは1.5mずつ上がっていく斜線に触れない範囲で建物を建築する必要があります。街中の住宅を見ていると、3階部分だけへっこんでいる住宅を見かけることも多いと思いますが、それは道路斜線制限を回避するために設計されたものがほとんどです。
斜線制限の緩和措置
斜線制限にはいくつかの緩和措置が設けられています。それぞれどのような緩和措置があるのか簡単に解説しておきます。
隣地斜線制限の緩和措置
隣地斜線制限は、20mもしくは31mを超える部分を隣地境界線から後退(セットバック)させることによって、本来の隣地境界線より外側に隣地境界線があるものとみなして、隣地斜線制限を適用させることができます。
引用元:メガソフト
ちなみに、セットバックさせるのは20mもしくは31mを超えた部分であり、その高さより下の部分をセットバックをさせても緩和措置は適用されないので注意が必要です。
北側斜線制限の緩和措置
北側斜線制限の緩和措置には、「高低差緩和」というものがあります。これは北側の敷地が、建物を建てようとする敷地の地盤面より1m以上高い場合の受けられる緩和措置のことです。
高低差から1mを引いて、残りの高低差の1/2だけ敷地が低い位置にあるものとみなして、北側斜線制限が適用される範囲を緩和させることができます。
例えば高低差が2.6mの場合、「(2.6m-1m)÷2=0.8m」となり、北側斜線制限の適用範囲を本来より0.8m上にずらすことができます。
道路斜線制限の緩和措置
道路斜線制限にはセットバック緩和という緩和措置があります。建物を道路境界線より後退(セットバック)させて建てることによって、道路斜線制限のスタート地点をセットバックした距離と同じ分だけ外側にずらすことができます。
前面道路の幅員によっては、道路斜線制限の影響で3階建てを建てることができないこともありますが、そういった場合には建物を後退させることで3階建ての建築が可能になるケースもあります。
最後に
本記事では「隣地斜線制限」「北側斜線制限」「道路斜線制限」の3つの斜線制限について解説いたしました。斜線制限は建物を建てる際とても重要なことなので、しっかり理解した上で土地探しを行うようにしてください。
又、実際に土地を探していて「この土地にはどんな建物が建てられるんだろう…?」とお悩みになることもあると思います。当社では、無料で建物のプランニングをさせていただきますので、どうぞお気軽にご相談ください。それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。